産経新聞2021年11月10日より毎週水曜日掲載されたコラムを文字起こししたものです。
その4
「人望」生きる力をもらって
相手を敬い愛される人に
子供に身につけてほしい力に「人望」があります。人生の荒波を乗り越えていくには「強さ」が大切ですが、そこに共感してくれる人、支えてくれる人、応援してくれる人が必要です。
私は子供の人間関係を小さな頃からとても注意深く見守ってきました。学校で成績が良くなくても、水泳の記録が振るわなくても、子供に「友達がいるのか」 「友達と仲良くできているのか」、そのことの方がよほど重要だったのです。
私はその道で一番になる ことより、人間力が高くなることを優先してきました。その中でも周りの人に愛される人になる、応援される人になるということを大事にしてきました。そのために、「人を敬う」ことの大切さを子供たちに教えました。
わが家はひとり親ですから、序列の1番は親の私、長女が2番、長男が3番、次女の璃花子は最後です。子供を優先するとか、きょうだいの小さい方を優先するとか、そういうことはしません。きょうだい間で友達のように名前を呼び合わせず、「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」という呼び方をさせました。
長子を優先して愛情深く接することで、その愛は長子から下のきょうだいに注がれます。小さい子供であれば、下の子が生まれると、上の子が赤ちゃん返りをするということがありますが、そのようなこともわが家では全くありませんでした。 家族でも年上の人に敬意を払うことや、人にかわいがられるような人望を持つことを小さい頃から教えてきたからだと思います。
璃花子が闘病中に行われた2019年の世界選手権。100mバタフライの表彰式後には、トルコで合同合宿をしたこの種目の世界記録保持者、サラ・ショーストロム選手(スウェーデン)らが「Ikee ♡ NEVER GIVE UP Rikako ♡」と手のひらに書いて応援メッ セージを送ってくれました。
東京五輪では、19年1月に体調不良でオーストラリアから緊急帰国(後に白血病が判明)したときに師事していたマイケル・ボール コーチや、エマ・マキオン選手(東京五輪では7個のメダルを獲得)とも再会。 璃花子の復帰を心から喜んでくださいました。
こんなにもたくさんの方が、璃花子の病からの復活を待っていてくれたのだと思うと、ありがたい気持ちで胸がいっぱいになりました。
つらい闘病中、全国から応援のお手紙やさまざまなお見舞いの品が届きました。 千羽鶴の鶴は、全部で 4万5千羽も頂きました。璃花子が人に愛されるという人望があることを闘病を通しても知りました。支えてくれる人、応援してくれる人がたくさんいたからこそ、璃花子は生きる力をもらい、闘病を乗り越えることができたのだと思います。


池江美由紀(いけえ・みゆき)
東京都出身。3人(長女、長男、次女)の子育てをしながら、1995年から幼児教室を経営。次女が小学校に上がる前に離婚し、ひとり親で3人を育てる。東京経営短期大学こども教育学科特別講師。
初の著書『あきらめ ない「強い心」をもつために』(アスコム)刊行。
池江璃花子(いけえ・りかこ)
2000年7月4日生まれ、21歳。
3歳で水泳を始めた。2016年リオデジャネイロ五輪は100mバタフライ5位。100、200m自由形と50、100mバタフライの日本記録保持者。 19年2月に白血病と診断された。日大、ルネサンス所属。