産経新聞2021年11月10日より毎週水曜日掲載されたコラムを文字起こししたものです。
その5
親は世界一優しく、怖い人
子供のため、心を鬼に主導権
わが家では、親の私が主導権を持っていました。3人の子育ては、人が思うほど大変ではなかったのは、このおかげです。
親子の関係で主導権はどちらがお持ちでしょうか。 子供は何の観念も持たずに生まれてきます。見ること聞くこと体験すること、すべてが蓄積して人格が作られます。親は皆、子供が賢く、やる気にあふれ、我慢強く粘り強く、逆境にも屈しない、なおかつ他者への思いやりや、人望がある人間に育ってほしいと願うはずです。しかし、それは親が教えなければ決して身につくものではありません。
子供のやりたいことや自由を優先し、親子間の主導権を子供に明け渡すような子育てでは、子供は親の話を受け入れ、親から学ぼうとはしなくなります。子供の機嫌が悪くてぐずったり、泣いて拒否したりしたからといって、親は教えるべきことを諦めてはいけません。子供がそうしているのは、親から主導権を取ろうとしているのです。 何とか自分の要求をかなえよう、自分のペースにしようと親を試しているのです。
それに負けて子供の言いなりになったり、親自身が言ったことを曲げたりしてしまっては、自分が主導権を取れるということを学ばせてしまいます。その積み重ねが近い来子供に多くのことを学ばせる機会を奪ってしまうことにつながります。

食事は落ち着いて座ってするものです。わが家では、子供たちが歩き回ればご飯を片付けましたし、次の食事までは絶対に食べさせませんでした。主導権を持っていない親は、叱ったり小言を言ったりしながらも子供のペースに合わせてしまいます。 遊びながら食べたり、途中で歩き回ったり、叱られればひっくり返ったり。 どうしてこうなのだろうと途方に暮れる親御さんもいらっしゃいますが、それは主導権を子供に握られているからです。
子供は生まれてからすべての環境を受け入れます。 親がいけないと教えたことはしませんし、こうすることが正しいのだと教えれば必ず理解します。もともと頑固で言うことを聞かない子など一人もいないのです。
ご家庭でも、お父さん (お母さん) の言うことは聞くけど、他方の親の言うことは聞かないというお子さんがいるのではないかと思います。子供は、自分がコントロールできる、自分が主導権を持てる親をちゃんとわかっているのです。
主導権を親が持つということは、子育てで最も大切なことです。親は世界で一番優しく、また世界で一番怖い人にならなければいけません。良いことは良い、いけないことはいけないと、子供のために心を鬼にして教えなければなりません。そのような役目を果たすのは親しかいないのです。
池江美由紀(いけえ・みゆき)
東京都出身。3人(長女、長男、次女)の子育てをしながら、1995年から幼児教室を経営。次女が小学校に上がる前に離婚し、ひとり親で3人を育てる。東京経営短期大学こども教育学科特別講師。
初の著書『あきらめ ない「強い心」をもつために』(アスコム)刊行。
池江璃花子(いけえ・りかこ)
2000年7月4日生まれ、21歳。
3歳で水泳を始めた。2016年リオデジャネイロ五輪は100mバタフライ5位。100、200m自由形と50、100mバタフライの日本記録保持者。 19年2月に白血病と診断された。日大、ルネサンス所属。