産経新聞2022年1月26日水曜日に掲載されたコラムを文字起こししたものです。
その10
見守りながら、難しいことに挑戦
うんていが育てた運動神経
米フィラデルフィアで人間能力開発研究所を設立し、幼児教育についての著書も多いグレン・ドーマン氏の「赤ちゃんは運動の天才」という本には、「知能の発達は運動から」とあり、私の子育てにたくさんのインスピレーションを与えてくれました。
巻末にはブレキエーション(うんてい)が寸法などとともに図解してあり、私の教室にも、自宅にもうんていがあるのはこの本のおかげです。

生まれたばかりの赤ちゃんをどう扱っていいのか、初めての子育てではわかりませんでした。ですがこの本のおかげで、「こわれもの」のようにではなく、なるべくアクティブ(活動的)に扱うことで赤ちゃんの運動能力を伸ばせるのだと知りました。
ですから、3番目の璃花子は、生まれたときから抱き上げるときに首を支えることはしませんでした。 寝ている状態から両腕を引っ張って座らせたり、立たせたり、つり上げたりしていました。

赤ちゃんはもともと、反射で手を握る力が強いので、赤ちゃんが寝ている状態から親の親指を赤ちゃんに握らせ、こちらも赤ちゃんの手全体を握り引き起こします。そのうち自分の握力で自分の体重を支えられるようになります。 まだか弱い力ですので、いつでもつかまえることができるようにしますが、半年もたたないうちにぶらぶらと親の指にぶら下がれるようになります。
このようにアクティブに育てた花子は、そのうちに教室のうんていにぶら下がれるようになり、1歳半では鉄棒で逆上がり、2歳にはうんていを進めるようになりました。「あなたならできるよ」と要領を教え てやると、足をかけてうんていの上に登れるようになりとても満足そうでした。
まだ花子が小さいころ、野外のアスレチックに行き、小さい子がとても登れないような遊具に登っているのを私が励ましながら見守っていたこともありました。ちょっと危ないかなと思うような目標でも、わが子だからできることがあります。いつも見守りながら、少し難しいことも果敢に挑戦させていました。自宅のうんていは、10年 前、家を建て替える際に大 工さんに特注で作ってもら いました。「登り棒とうんてい、どっちがいい?」と聞くと「うんてい!」というので取り付けることになりました。
自宅のうんていはリビングにあり、高さは230㎝です。昔は私もうんていに飛びつけたので、子供たちとうんていのタイムトライアルをよくしていました。取り付けてくれた大工さんや電気屋さんとやったときは、璃花子が1番、私が2番、30代や20代の職人さんに圧勝しました。「うんていを作ったばかり の頃、璃花子はとにかくぶら下がっていました。テレビを見るときもうんていにつかまりながらでしたし、 家の中の移動もうんていで進みながらということがよくありました。ターンをして3本連続でやったり、両手でうんていをつかみそのまま次のうんていに飛びつくことを連続でしたりすることもしていました。
脳も運動神経も赤ちゃんの頃から育ちます。運動神経は握ることで育つというのは私の持論です。
池江美由紀(いけえ・みゆき)
東京都出身。3人(長女、長男、次女)の子育てをしながら、1995年から幼児教室を経営。次女が小学校に上がる前に離婚し、ひとり親で3人を育てる。東京経営短期大学こども教育学科特別講師。
初の著書『あきらめ ない「強い心」をもつために』(アスコム)刊行。
池江璃花子(いけえ・りかこ)
2000年7月4日生まれ、21歳。
3歳で水泳を始めた。2016年リオデジャネイロ五輪は100mバタフライ5位。100、200m自由形と50、100mバタフライの日本記録保持者。 19年2月に白血病と診断された。日大、ルネサンス所属。