池江流子育て『どんな人から生まれても』

産経新聞2022年3月2日水曜日に掲載されたコラムを文字起こししたものです。

その15

成果ではなく経過の努力見て

習い事 熱心になりすぎない

長女、長男、璃花子の3人が習っていた水泳を通して、ただ単に子供の習い事の範囲ではなくなっているのを感じることがありました。親が熱心になりすぎて、水泳でいえば記録が速くなることを優先してしまう子育てになっているということです。

それはたとえ、子供がトップアスリートになったとしても、北京冬季五輪のフィギュアスケートで噴出したドーピング問題のようなものに、最終的にはつながっていくのかもしれません。

私は、子供が成長するのを見るのが楽しくて水泳に通わせていました。しかし、子供たちが上達して選 手コースに上がると、疑問に思うことがたくさんありました。

一つは、子供の実力が高いと、親の存在も上であるというおかしな序列ができてしまっていたことです。 単純な言い方ですが「泳ぐのが速い子供の親が威張っている」ということです。私は初めはそのような序列や親が作ったルールを知らなかったので、クラブの中でずいぶん嫌な思いをしました。

町のスイミングクラブでは、水泳から離れれば子供たちは友達です。たとえ水泳がとびきり速くても、プールから出れば平等な関係であることを、親たちが自ら手本を示す人間関係を構築することが大切なのではないでしょうか。

ジュニアの最高峰の全国大会は、「ジュニアオリンピック (JO)」といいます。10歳以下の部から8歳 までの区分に分かれ、各年齢で参加基準タイムがあり、それを切らないと出場できません。選手になるとどの子供の親も、JOに出場することを目標にして頑張っています。

子供たちのクラブでも、100人ほどいる選手の中で、個人種目でJOに出られるのは毎回4、5人ほどではなかったかと思います。子供たちは純粋に頑張っているのですが、親の中ではJOに子供が出ているかどうかでヒエラルキーができてしまっていました。そしてもう一つは、親が指導者になってしまっていたということ。親が熱心ということは、子供を伸ばすという点ではとても大切なことです。しかし、指導者であるコーチを飛び越してプールサイドから身ぶり手ぶりで子供を指導したり、練習メニューを組んだり、わが子をリレーメンバーにしてほしいと直談判してしまう親までいました。私はコーチとよくお話をして信頼していましたので、指導の仕方に口を出すことはありませんでした。

練習場に限らず、大会で速いタイムで泳げなかった子供を叱りつけている親御さんもたびたび見かけました。叱るのは何か悪いことをしたときにすべきことで、一生懸命やったけれど結果が出なかった子供にそうしていれば、その子は近い将来、水泳を嫌いになってしまうのではないでしょうか。

大切なことは、わが子が人間性を学ぶ場に習い事がなっているかどうかということです。水泳であれば親の見栄や競争の場にプールがなり、本来、心や体を成長させるはずの水泳が、子供の心に害を与えてしまっていないかよく考えなければなりません。スポーツは勝つばかりでも、楽しいことばかりでもありません。人間性とつながっていることを親は忘れてはいけないと思います。

成果主義で育てないよう にすることは子育てで最も大切なことの一つです。子育ては結果ではなく、その経過の子供の努力を見てやることが大事なのです。

中学2年の頃、全国大会で 大会新記録をマークし、優勝をした池江璃花子選手

池江美由紀(いけえ・みゆき)

東京都出身。3人(長女、長男、次女)の子育てをしながら、1995年から幼児教室を経営。次女が小学校に上がる前に離婚し、ひとり親で3人を育てる。東京経営短期大学こども教育学科特別講師。

初の著書『あきらめ ない「強い心」をもつために』(アスコム)刊行。

池江璃花子(いけえ・りかこ)

2000年7月4日生まれ、21歳。

3歳で水泳を始めた。2016年リオデジャネイロ五輪は100mバタフライ5位。100、200m自由形と50、100mバタフライの日本記録保持者。 19年2月に白血病と診断された。日大、ルネサンス所属。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。