産経新聞2022年3月30日水曜日に掲載されたコラムを文字起こししたものです。
その19
子供を信じて応援を
経験者に学び、自分流に
桜の季節がやってきて、春爛漫になりました。病気を治すことを優先するためにすべてを犠牲にした3年前は、「桜なんて咲かなければいい」と思いましたが、今は桜の美しさを楽しめるようになりました。
まだ私が子供を持つ前、産経新聞に掲載されていた「赤ちゃんはみんな天才」という教育コラムを毎週楽しみにしていました。その執筆者であり、後に私の恩師となる方の胎児から幼児への教育メソッドは、私の人生までを変えるものになりました。
赤ちゃんはみな素晴らしい能力を持って生まれてくること、優秀な親の遺伝子よりも、それを引き出すための環境や刺激が大切であること、それはどんな人から生まれても可能であること。自分の人生に半ば失望「していた私は、その記事に勇気づけられ、子育ての礎にしてきました。熱心が高じて幼児教室の運営も始め、たくさんのお子さんの能力開発や親御さんのご指導もしてきました。
開校当初は、母親としても講師としても未熟でしたので、教えられた通りのことを実践するのが精いっぱいでした。私の学んだことや教えていることが本当にそうであるのか、将来子供がそのような能力を身につけられるのか、子育ての場でも生徒さんへのご指導でもわかりませんでした。なぜなら人間教育という結果が出るのは、何週間や何年か後ではなく、社会との関わりを持ち、自ら考え行動できるようになってから目に見えてくるからです。
あれから3年近くがたちました。日々悩みながら迷いながらしてきた子育てや、積み重ねてきた幼児教室での指導に今は確信を持ち、自信を持ってお伝えすることができるようになりました。
「育てたように子は育つ」。これは最も大切な子育ての根幹です。親の言葉、親の態度、親の生き方 そのすべてが将来の子供を作ります。子供は何もわからない真っ白な状態で生まれてきます。親は子供が物心つく前から子供の持つ可能性を引き出し、人としての道理をしっかり教えることが大切です。物事を自分で判断できるようになれば、あとは子供が困って親を頼ってきたとき、力を貸してあげればよいのです。
長い月日を経て恩師の教育コラム欄に、私が書かせていただいているご縁を、大変うれしく思います。
璃花子がリオデジャネイロ五輪の日本代表に決まった際に私を取材した記者にも、私の教育理論に共感してくださった方がいます。その後生まれたお子さんに同じメソッドを実践されたことを最近知りました。
「美由紀さんと会って家 に帰ると、子供たちがいつも以上にいとおしく感じます」と言われたことがあり ます。私が恩師と出会い子供たちのおかげで人生が変わったように、多くのお母さんたちに子育ての勇気を与えられ、楽しんでもらえればこれ以上幸せなことはありません。
誰しも親になるための教育を受けることはできません。学ぶべき対象は先を歩く経験者である親たちです。その方々のたくさんの経験を学び、取捨選択をして自分流にしていく、それが何よりも自分にあったよい子育てなのではないかと私は思います。ぜひ今の子育てを楽しんでもらいたいと思います。
璃花子は来年の3月に大学を卒業します。その後のことは何も決まっていませんが、水泳を続けていくことだけは確かです。本人が自分を信じるように、私も子供を信じて応援していくだけだと思っています。

一緒に桜をめでたときの1枚 令和2年3月
池江美由紀(いけえ・みゆき)
東京都出身。3人(長女、長男、次女)の子育てをしながら、1995年から幼児教室を経営。次女が小学校に上がる前に離婚し、ひとり親で3人を育てる。東京経営短期大学こども教育学科特別講師。
初の著書『あきらめ ない「強い心」をもつために』(アスコム)刊行。
池江璃花子(いけえ・りかこ)
2000年7月4日生まれ、21歳。
3歳で水泳を始めた。2016年リオデジャネイロ五輪は100mバタフライ5位。100、200m自由形と50、100mバタフライの日本記録保持者。 19年2月に白血病と診断された。日大、ルネサンス所属。